1. 増え続ける空き家

2013年の日本の空き家数は820万戸、空き家率は13.5%と過去最高を記録した(【図1】)。
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空き家には、「売却用」、「賃貸用」「二次的住宅(別荘等)」、「その他」の4つの類型がある。 このうち特に問題となるのは、空き家になったにも関わらず、買い手や借り手を募集しているわけではなく、そのまま置かれている状態の「その他」の空き家である。例えば、親の死亡後、そのままにしておくケースがこれに当たる。「その他」の空き家の大半は木造戸建てである。住まなくても維持管理を行っていれば問題はないが、放置期間が長引くと倒壊したり、不審者侵入や放火、不法投棄の危険性が増すなど周囲に悪影響を及ぼす問題空き家となる。空き家全体に占める「その他」の空き家の割合は、2008年の35%から2013年には39%にまで高まった。 「その他」の空き家率(「その他」の空き家/総住宅数)は5.3%と、これも5年前(4.7%)に比べ上昇した。都道府県別では、鹿児島(11.0%)、高知(10.6%)など過疎で悩む県が上位となっている。これに対し都市部では低く、一番低いのは東京(2.1%)である(【図2】)。

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「その他」の空き家率は、高齢化比率との相関が高く、高齢化比率の高い都道府県ほど、「その他」の空き家率が高くなっている(【図3】)。今後、高齢化比率が上昇していくにつれ、「その他」の空き家も上昇していくことが予想される。

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都市部では「その他」の空き家率は低いが、低いから問題が少ないというわけではない。都市部では「その他」の空き家率は低くても、「その他」の空き家の数は多い。「その他」の空き家の数が一番多いのは大阪で、次いで東京となっている。また、都市部では住宅が密集しているため、問題空き家が1軒でもあると近隣への悪影響が大きいという問題がある。 一方、東京についてみると、2013年の空き家率は11.1%と5年前の前回調査と変わらなかった。空き家の構成比は、全国では「その他」の割合が増えたが、東京ではこの割合が25.1%から18.7%に低下する一方、「賃貸用」の割合が65.5%から73.2%に上昇した。 都市部では賃貸物件の供給が多く、最近は相続対策で物件供給がまた増えたが、新築は満室になる一方で、古い物件の空き室が増えていることを示している。借り手を募集しているうちは一定の管理を行っているため問題はないが、老朽化して募集を止めると、そうした賃貸物件は「その他」の空き家に分類されることになる。管理が放棄されると、一戸建てと同様、近隣に悪影響を及ぼす可能性が高まる。都市部では賃貸用の空き家が将来的に問題をもたらす可能性が潜在的に高いことを示している。 戸建ての問題空き家となる予備軍が増加している背景には、(1)人口減少、(2)核家族化が進み、親世代の空き家を子どもが引き継がない、(3)売却・賃貸化が望ましいが、質や立地面で問題のある物件は市場性が乏しい、(4)売却・賃貸化できない場合、撤去されるべきだが、更地にすると土地に対する固定資産税が最大6倍に上がるため、そのまま放置しておいた方が有利、などがある。
2. 特異な日本の住宅市場

多くの国では空き家率は経済状態によって上下に変動するが、日本の場合、戦後一貫して上昇し続けてきた。この背景には、戦後の住宅市場が使い捨て型の構造になったことによる。高度成長期の人口増加に伴う住宅不足に対応するため、新築が大量供給されたが、その間に物件の質が落ち、住宅寿命が短くなった。また、市街地が外延部にまで広げられ、立地条件の良くない住宅も多く供給された。 つまり戦後は、市街地を無秩序に広げ、そこに再利用が難しい住宅が大量に建てられたが、一転して人口減少時代に入ると、条件の悪い住宅から引き継ぎ手がなく、放置されるようになった。都心部でも東京の木造住宅密集地域などでは、建てられた時点では適法でも現在の法令では違法状態で再建築できない土地の場合、空き家がそのまま放置されている。 こうした状況は海外から見ると特異である。例えば、イギリスの空き家率は3~4%、ドイツの空き家率は1%前後と、極めて低い水準で推移している(【図4】)。ヨーロッパでは、市街地とそれ以外の線引きが明確で、どこでも住宅を建てられるというわけではない。建てられる区域の中で、長持ちする住宅を建てて長く使い継いでおり、購入するのは普通、中古住宅である。アメリカも同じ考え方であるが、空き家率が8~10%と比較的高い水準で推移しているのは、国土の広さが関係していると考えられる。

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ヨーロッパやアメリカの住宅市場では、新築と中古を合わせた全住宅取引のうち、中古の割合が70~90%程度を占めるのに対し、日本ではその比率は10%台半ばという極めて低い状態になっている。日本では、空き家が増加する現在でも年間80万戸ほどの住宅が新築されており、2013年度は消費税率引き上げ前の駆け込み需要で、99万戸もの住宅が新築された。日本の住宅市場は、空き家が増加する一方、新築住宅が造られ続けるという状況に陥っている。
3. 20年後の空き家率

このままで推移すると、空き家率はどの程度まで上昇するのか? 一定の条件の下で、全国と東京都の空き家率の試算を行ってみた(【図5】)。まず、今後の住宅需要、つまり世帯数については、国立社会保障・人口問題研究所の推計に基づくものとした。推計によれば、日本全国の世帯数のピークは2019年、東京都の世帯数のピークは2025年で、以降は減少していく。日本全体の人口はすでに減少しているが、単身世帯の増加など世帯の小型化によって、世帯数はまだ減少に転じていなかったが、今後は減少に向かっていくことになる。次に供給側の想定であるが、新設住宅着工戸数が今後も直近の平均的な水準で推移していき、住宅取り壊しのペース(滅失率)もまた直近の平均的な水準で推移していくという場合をケース1とした。つまり、ケース1は現状維持である。次に、新設住宅着工戸数を段階的に減らしていって最終的に半減させ、滅失率については徐々に上昇させていって最終的に2倍になるという場合をケース2とした。

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ケース1の場合、全国の空き家率は2033年には28.5%に達する。一方、東京都の空き家率は、1998年頃までは全国とほぼ同じ水準で推移していたが、その後、地方で先行して人口・世帯の減少が始まったため、全国の空き家率が東京都の空き家率を上回るようになっていた。しかし、今後は、東京都でも世帯数が減少に向かっていくため、次第に全国の空き家率に追いつき、2033年には全国とほぼ同じ28.4%になるという結果が得られた。一方、ケース2では、空き家率の上昇ペースは抑制されるが、それでも2033年には全国で22.8%、東京都で22.1%になるとの結果となった。 新築を半減させて(足りない分は中古の活用を進める)、取り壊しのペースを2倍に上げていったとしても、空き家率を低下させることは難しいことを示している。今後、空き家問題がより一層深刻化していくのは確実な情勢である。
4. 特措法制定と税制改正

空き家対策は、当面の対策としては、危険なものについては速やかに撤去していくこと、また、まだ使えるものについては利活用を促していくことが必要になる。 撤去については、問題空き家に対し、指導、勧告、命令、代執行を行うことのできる空き家管理条例の制定が進んだ(2014年10月1日時点で401自治体が施行済み)。空き家管理条例の制定・施行状況には地域差が大きく、半数以上の自治体が施行している都道府県は、秋田(92.0%)、佐賀(80.0%)、山形(77.1%)、山口(68.4%)、新潟(60.0%)の5県である。このほか10位には、埼玉(33.3%)が入っている。施行率が上位の自治体には、人口減少で空き家増加が著しい地域や、豪雪で空き家が倒壊の危険に瀕している地域、あるいは住宅が密集している都市部が含まれている。 条例制定が進んだことを受け、2014年11月には、同様の内容を含む「空家対策特措法」が成立した(2月26日一部施行、5月26日全面施行)。特措法では、(1)倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、(2)著しく衛生上有害となるおそれのある状態、(3)適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態、(4)その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態になっているものを「特定空家」とし、市町村が立ち入り調査の権限を持ち(拒んだ場合は過料)、指導、勧告、命令(従わない場合は過料)、代執行の措置を行えるものとした。特定空家の判断基準については、法律の全面施行までに国土交通省がガイドラインを定めることになっている。それに基づき、市町村が判断することになる。また、特措法では、市町村が「空家等対策計画」を定めることができるとされ、対象地域については、空き家の実態調査や撤去、利活用に関して国の財政支援が受けられることになる。 さらに、2015年度税制改正では、勧告の対象となったものについては固定資産税の住宅用地特例を解除することとされている。住宅を建てた場合に税を軽減する仕組みは、住宅が足りない時代には住宅取得を促進する効果を持ったが、住宅が余っている現在では、危険な状態の住宅でも撤去せず残しておくインセンティブを与えている。こうした弊害をなくす意図である。
5. 特措法の効果と予想される弊害

このように、特措法と税制改正によって、特定空家の所有者に対してプレッシャーが強まる。これが空き家所有者の行動に与える影響としては、特定空家にならないように維持管理を行う、賃貸化するなど物件を活用する、あるいは維持管理コストと将来的な税負担増を考えて売れるうちに売るなどの選択を行うことが考えられる。こうした行動変化をにらみ、ハウスメーカーや不動産事業者などが空き家の管理、流動化を請け負うサービスを相次いで開始しており、特措法の効果はこうした面でも表れている。 ただし、特定空家の所有者の税負担を高めたとしても、その支払い能力がなく、撤去費も出せない場合には、そのまま放置される物件も出てくると考えられる。この場合、最終的には代執行に至るが、費用は請求しても払ってもらえず、費用回収のため敷地の売却を迫られる。しかし、売れたとしても抵当権が付いていた場合、自治体に回ってくる分があるかはわからない。回収できない場合、自治体にとっては公費撤去になってしまう。自治体が代執行に積極的に踏み切る弊害としては、最終的にこうした措置が取られることがわかっているとしたら、自ら動かず、自治体による措置がとられるに任せる所有者が出てくる可能性が高まることである。 今回の税制改正に先んじて固定資産税の問題に手をつけた自治体では、危険な状態になった場合、住宅用地特例は解除するものの、2年間の猶予期間を与え、これを撤去費の補助代わりとし、自主撤去を進めようとしたところもある。新潟県見附市、富山県立山町がそれで、福岡県豊前市の場合は、猶予期間をさらに長く10年に設定している。ただ、こうした措置にも問題がないわけでない。猶予を受けられる状態よりも少し良い状態の物件については、その時点で撤去するよりも、もう少し待って猶予を受けられる状態にまで悪化してから撤去に踏み切った方が有利なため、その状態まで放置するという可能性である。このように、猶予期間を設けることについては、一長一短ある。 特措法と税制改正の効果によって、特定空家の撤去は、従来よりは進むと考えられるが、それでも対応してくれない場合、すべて代執行するのか、あるいは何らかの形で撤去費を補助することで自主撤去を促すのかという問題は、今後浮上してくる可能性が高い。
6. 撤去費の公的支援

条例や特措法による指導・勧告・命令、固定資産税の住宅用地特例の解除は、空き家所有者にプレッシャーを与える「ムチ」の施策である。しかし、ムチだけで撤去が進むとは限らないため、これまで自治体は、各種のインセンティブを設けることを通じても、撤去を促してきた。 前述の固定資産税の特例解除+税額引き上げの猶予はその一種であるが、よりシンプルな施策としては、撤去費補助がある。毎日新聞社のアンケート調査によれば、撤去費補助の制度を持っていると回答した自治体は、2014年秋の時点で96自治体に達した(『毎日新聞』2014年9月21日)。 最も多く撤去費を補助している自治体は広島県呉市で、調査時点までに262件、総額7,000万円の補助を実施した(補助の上限は30万円)。呉市は斜面が多く撤去が進みにくいため、補助によって撤去を促している。東京都内では足立区、荒川区、北区などが補助を実施している(補助の上限は80~100万円)。呉市では補助額は少なめにして適用件数を多くしているが、都内の例は倒壊等の危険性が特に切迫している空き家について、代執行にまで踏み切るよりは、補助によって少しでも早く撤去されることを狙っている。 撤去費補助には、東京都福生市のように、空き家となって1年以上経過した物件を対象に、所有者が建物を撤去し、ファミリー向け住宅に立て替える場合に限り、撤去費を補助するというユニークな仕組みもある(補助の上限は50万円)。福生市は若年層の人口流出が多いという問題を抱えており、撤去と併せ新築を進めることで人口定着を図る狙いがある。 土地建物を自治体に寄付する条件で、空き家の公費撤去を進めている例もある。長崎市では土地建物を市に寄付し、跡地の利用について地域で話し合い、管理していくことを前提に公費撤去している(2013年度までに41戸撤去)。長崎市の場合、斜面が多く、限られた平地と斜面に住宅が密集しているため、空き家跡地の公的利用は、居住環境改善という点で重要な意味を持つ。所有者のためでなく、地域のために公費投入している。公費撤去の仕組みを持っている自治体としては、ほかに山形市、富山県滑川市などがある。 空き家の建っていた土地を一定期間公共利用することを条件に撤去費を補助し、公共利用の間の固定資産税を免除することで、空き家撤去を促している自治体もある。東京都文京区はこうした仕組みを設け(撤去費補助の上限は200万円)、これまでに2戸撤去した。こうした仕組みを早くから取り入れたのは福井県越前市で、これまでに22戸の空き家を撤去している。 自主撤去が望めず、危険が切迫している空き家については、積極的に代執行を行っている自治体もある。雪国で倒壊の危険が切迫している秋田県大仙市がその代表である。しかし、これまで行った3ケースに対して支出した撤去費用620万円は回収できていない。代執行が、結果的に公費投入になっているという事例であるが、そうであったとしても撤去することの公益性が勝るという判断に基づいて行われた。 こうした様々な公費投入の仕組みは、自治体がそれぞれの事情によって講じてきたものであるが、今後策定される空家等対策計画では、自治体の置かれた状況によって、こうした様々な施策も盛り込まれていくと考えられる。 ただし、公費投入にはモラルハザードの問題がある。最初からそうした支援を受けられるとわかっていたら、誰も自己負担で撤去しなくなる。行政としては、あくまでも自主撤去を原則とし、公費投入は地域や物件の事情によって、ぎりぎりのところで踏み切るというスタンスで臨む必要がある。ぎりぎりの段階で危険が切迫している、あるいは地域にとって跡地に高い価値があるといった場合には、様々な形で公費投入し、特定空家の撤去を進める余地が出てくる。この辺は、自治体の知恵の絞りどころとなる。
7. 空き家バンクの活用促進

一方、利活用の促進については、地方の自治体では、従来から空き家バンクを設けている例が多い。空き家バンクは、自治体が主体となり、空き家の需給をマッチングさせる仕組みである。 空き家バンクを機能させるためには、まずは、登録物件を十分確保する必要がある。空き家バンクでは、改修費補助、家賃補助など新たな入居者に対する支援策を講じている例は多いが、空き家所有者にインセンティブを講じている例は少ない。数少ない例が大分県竹田市で、家財道具の整理が面倒などの理由で空き家バンクへの登録物件が増えないことに対応するため、売却・賃貸化する場合、成約時に10万円を支給する支援策を設けている。また、長野県大鹿村では、空き家バンクに登録して売却または賃貸化できる物件について、家財道具の運搬・処分、処理費用を補助している(上限10万円)。大鹿村の場合は登録するだけでよく、成約という条件は課していない。 登録物件を増やすためには、このほか地元の不動産業者やNPO、地域の協力員などとの連携も欠かせない。さらに、成約を増やすためには、物件に問い合わせがあった場合の生活、仕事の相談を含めた十分なコンサルティング、サポート体制を準備しておく必要がある。これらの体制作りは、行政と地域が一体となって取り組んでいく必要がある。 空き家の利活用としてはこのほか、地域のコミュニティスペースとしての活用はよくある。例えば、東京都世田谷区では、無償で空き家(室)を地域に開放したり、寄付したりすることで、地域で活用する仕組みを設けている。
8. 中古住宅の流通促進

これまで述べてきたように、空き家対策としては、当面は危険なものの撤去を進めることと、利活用可能なものは少しでも利活用を進めていくことが必要になる。しかし、これは対症療法であり、より根本的な解決を図るためには、日本の住宅市場を欧米の住宅市場のように、良いものを造って、それを長く使っていく構造に変えていく必要がある。 これまで日本の住宅は、いずれ売却することを念頭にきちんと手入れしてこなかったため、中古住宅購入者の不安が大きかった。また、住宅所有者にとっては、たとえ手入れをしても中古市場で評価されるわけではなく、手入れを行うインセンティブがなかった。近年では、日本でもようやく住宅のメンテナンス記録を残し、それを中古市場で評価する動きが出ており、国もこうした仕組みを広げようとしている。建築時点での住宅の質を高める仕組みは、長期優良住宅認定制度などとして整えられ、対応住宅も増えている。 中古住宅を取得する場合の金銭的インセンティブとしては、住宅ローン減税を新築よりも中古の方が手厚い仕組みに変えること、一部自治体が実施している改修費補助の仕組みを国レベルでも導入することなどが考えられる。 こうした施策により、長持ちする住宅を建て、長く使い継いでいく住宅市場に変えていくことが、時間はかかるが、より根本的な空き家対策となる。また、これまで無秩序に拡大してきた市街地については、コンパクトシティ化により選別していく必要がある。

情報提供:富士通総研